〇繭玉

「あ、繭玉だ。こんな森の中にあるなんてめずらしい」

彼女はそう言うとゆっくりしゃがみ込み優しく手を伸ばす。目の前には白い糸を何層にも重ねて巻きつけた楕円形の毛玉の様な物体、サイズはひざ丈ほど。……これは恐らく人間の繭玉だ。

「あったか~い、すくすく育ってるのね。でもこんなところにいるとすぐ食べられちゃうよ?」

繭玉は簡単に言うと動物の卵だ。島の至る所に何の前触れもなく突然生成され1週間程の時間経過で勝手に孵る。ただし、繭玉は栄養価が非常に高く味も良いため魔物や動物に見つかればあっという間に食べられてしまう。それは人間の繭玉も例外ではない。この子をこのまま放っておけばすぐにでも食べられてしまうだろうし、運よく孵ったとしても成体になる前に別の生き物に食べられてしまうのがオチだろう。

「よしよし、私が安全な場所に連れてってあげるからね。」

彼女はにっこり笑うとソレを大事そうに抱え、地面に展開した魔法陣の上に立つのだった。