―消えない記憶―


これは大昔、島に存在したとされる高度な文明について一人の考古学者が当時の情報をめぐり文明崩壊の謎を紐解いていく物語です。


 

 

――マーダー・ホズラット、君にこの仕事を与える。今すぐ研究に着手しなさい――

 

 

この島には”遺構”と呼ばれる謎の建造物が数多く存在している。そこで見つかる物品は"遺物"と呼ばれ、どれも洗練されたデザインをしており高度な加工技術が使用されていた。それは紛れもなく大昔、この土地に豊かな文明が存在していた確かな証だった。だが残念ながら我々の祖先はそんな事になど微塵も興味を示さなかった、遺物は商人たちから商いの商品として、またある人からは仕事道具として収集され淡々と消費されてしまった。日々遺構は物漁りに荒らされ遺物はその多くが略奪されていった。長い時を経て貴重な文明の痕跡は見る影も無く無残に食い荒らされ、今や遺構は瓦礫と端材にまみれた文明の残りカスへと成り下がってしまった、そう思い込んでいた。

 

 

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―紹介状―

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場所:ポートリエス-雑貨店

◆ :テス・プロンプト

◇ :寺本・ベル

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◆はぁ、これもはずれ。

◇......その様子だと目ぼしいものは無かった感じだね?

◆あなた商人なんでしょ、もっとマシな物は手に入らないの?

◇散々な言いようだねぇ、これでもだいぶマシな物が集まった方だよ。

◇そもそもウチは古本屋じゃないし、ましてや遺構から持ち出された本だなんてそれこそとっくの昔に火に焚べられて灰になっててもおかしくないような代物さ。ソレをこれだけの数集めただけでも褒めてほしいもんだよ。

◆まぁそれはそうかもしれないけど......。

◇そもそも、こんな物を漁って一体何を探してるんだい?

◆文献よ、文献。過去の文明に関するね。文明だけじゃないわ、当時の経済、人々の暮らし、結末に関する......何もかもよ。

◇ほぅ。

◆あなたは気にはならないの?

◇......何が?

◆過去の文明についてよ、大昔に存在した未知の文明について何か思いを巡らせることは無いの?

◇んー、考えたこと無いなぁ。

◆じゃあ今考えてみて、高い技術力を持っていた筈の古代都市がなぜある時を境に一つの例外も無く全て滅んでしまったのか。あなたはどう思う?

◇さぁねぇ、病気でも蔓延したんじゃない?

◆病気なんて今の薬師でも治せるじゃない、その程度の事じゃ都市一つたりとも滅びはしないと思うわよ。

◇じゃあ魔物か妖怪にでも攻め滅ぼされたんじゃない?

◆なるほど?確かに過去見つかった遺物の中には武器もたくさんあったらしいから何かしらの争いがあった可能性は否定できないわね。でも現代には私達の町に攻めてくる野蛮な魔物も妖怪も見当たらないけど、それはどう説明するのかしら?

◇エサでも無くなって絶滅したんじゃない?ともかく、過去の事をあれこれ考えたってしょうがない。世の中は成るようにしか成らないんだからさ。

◆はぁ、過去から学べる事もあるというのに……。

◇まぁまぁそう言わずに。また何かそれっぽい物が手に入ったら連絡するから、続きはその時にでも話そうじゃないか。

◆あぁ、そうね。

◇......あ、あとそうそう、実は姉さんに渡したい物があるんだった。はいこれ。

◆うん?何よこれ?

◇この前店に来た知り合いに姉さんの事を話したらぜひ会ってみたい!って言う物好き......じゃなくて好奇心旺盛な物好きがいてね、その人の住所さ。

◆物好きって言葉が隠しきれてないわよ。

◆……ってこの住所、私の家の隣じゃないかしら?

◇なら丁度良い。今度会いに行ってあげなよ、ちょっと変わってるけど悪い人ではないからさ。それにその人は姉さんにとってかなり有益な存在になるんじゃないかと私は感じてる。まぁ、実際会って話してみればわかるよ。

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――市長様もこのプロジェクトには大きな期待を寄せてらっしゃる、その期待を裏切らぬようにな――

 

 

雑貨屋の店主から渡された住所には一人の物書きが暮らしていた、突然の訪問に最初は怪訝そうな顔をしていた彼女だが雑貨屋から紹介があった旨を説明するとその表情は一変し快く私を迎え入れてくれた。軽く自己紹介を済ませた後、通された部屋の中で彼女は自身の関心がある事柄について話し始めた。話を聞いてみると、どうやら彼女は過去の文明よりその時代に執筆された文学作品に強い関心があるらしい。曰く、それらの小説は自身の創造力を刺激し物語に程よいアクセントを付け加えてくれるとの事。それは彼女が過去の文豪から作品のアイデアを盗んでいるとも思える際どい発言ではあったが、そんな事より私は彼女がその様な書物を数多く所蔵しているという事実に大きな関心を寄せていた。

 

 

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―安全策―

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場所:ポートリエス-トラベル宅

◆ :テス・プロンプト

◇ :トラベル・ノートベル

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◆この本が全部遺物だなんて、よく集めたものね。

◆本の遺物なんてそう簡単に手に入る物ではないでしょう?ましてや小説ばかりこんなにたくさん。随分くたびれてる物もあるみたいだけど、一体どうやって手に入れたの?

◇あぁこれね?拾ったの。

◆……拾った?

◇うん。私さんぽが趣味でよく町の外を歩いてるんだけど、その途中で廃墟を発見することが多々あるのよねー。その廃墟にはコインとか食器とかいろんな物が落ちててね、まぁ大抵は汚れてたり壊れてたりで触りたくもない有様なんだけど、たま~に状態のいい本とか、面白そうなタイトルの小説とか見つけちゃうわけ。そうなると自然と手が伸びちゃうのよね~。

◆ほぅ、つまり遺構で物漁りをしていると?

◇物漁りだなんて人聞き悪いな〜。

◆でも事実じゃない。これだけの数持ち帰ってるんでしょ?

◇いやそうだけど〜、物漁りって言われる程でもないよ?ただ散歩中にたまたま見つけた物を拾ってるだけで......それにどうせもう持ち主はいないんだし、そのまま置いとけば朽ちて消えゆく運命なんだからこうして持ち帰ってあげた方が本も喜ぶでしょ?

◆はぁ、あなたみたいに遺構を荒らす輩がいるから文明の解明が一向に進まないのよ。……と、言いたい所ではあるんだけど中々興味深いお話ね。遺構にはまだそんな漁れるような物品が残されているのかしら?

◇漁れるって言うか、そりゃみんなが欲しがるような素敵な物はあんまり見かけないよ?あるのはよくわからない残骸とか、汚れた食器とか、苔むした本とか布切れとか、そんな物ば~っかり。

◆なるほど......遺構にはもう瓦礫しか残されていないのかと思ってたけど案外そうでもないのね。はぁ、羨ましい。出来ることなら私も一度足を運んでみたいわ。

◇行ってみればいいじゃない。廃墟探索って結構楽しいよ?

◆ずいぶん気軽に言うじゃない。外は魔物がうろついてて危険だし、それに遺構には町を追い出されたならず者達が野盗として住み着いてるなんて噂も聞くわよ?私みたいなろくに戦えもしない人間がそう簡単に行けるわけ……

◇みんな外を危険だってよく言うけど実際歩いてみると案外そうでもないよ?魔物は危害を加えなければあんまり襲ってこないし、野盗の人たちも町で噂されてるほど粗暴な感じじゃないよ。話だって通じるし、ちゃんと理性があるもの。

◆それはあなたの出会った人達がたまたまそうだっただけでしょ、実際彼らに危害を加えられたって証言する人も一定数いるんだから。

◇それはまぁ中には本当に危ない人もいるんだろうけど、でも万が一そういう人に出会った時はすぐ逃げればいいのよ。

◆逃げるって言ったって……追いかけてくるかもしれないじゃない、そういう時はどうするつもりなの?

◇私は転送魔法が使えるからもしもの時は魔法ですぐに逃げるよ?

◆へー、それはよかったわね。でも私はそんな便利な魔法使えないんだけど?

◇知らないわよそんなの、煙玉でも使ってやり過ごせばいいんじゃない?

◆なるほど……どうしてあなたがそんな気軽に外を出歩けるのかようやく理解できたわ。普通煙玉なんかに命は預けられないもの……あなたには確実な安全策があっていいわね、羨ましいわ。

◇そう?羨ましい?じゃあ今度一緒に行ってみる?もし一緒に行くなら私の”安全策”を使わせてあげてもいいよ?

◆あらホント?なんだか素敵な提案ね。

◇ただし、いくつか条件があるわ。まず、廃墟で何か面白そうな物を見つけた時はまず私に報告すること。いい?

◆……報告して何になるのよ

◇何にも?でも、面白いことは分かち合わないとね!

◇それともう一つ、私が遺構から小説を持ち帰ってこっそり読んでるってことは……くれぐれも他言しないこと、いいわね?

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――進捗はどうかねホズラット君、必要であれば数名の被検体を直ぐにでも用意するが――

 

 

転送魔法、それは発動時事前に設置した魔法陣へ人や物を瞬時に転送する魔法で帰還魔法としても機能する便利な魔法のようだ。魔法商品の開発をしているとある知人にその魔法について話を聞いてみたが、まだまだ研究が進んでおらず残念ながら商品として実用化の目途はたっていないらしい。生まれつきこの魔法がつかえる隣人の作家は有って無いような条件の元、その魔法で私の人生初となる冒険に安全な帰路を約束してくれた。あれから幾度かの交流を経てお互いすっかり打ち解けたある日の事、私は彼女と共に日帰りの冒険に出た。空っぽのリュックを背負い、もしもの時のために斧を装備し、コンパスと参考書を片手にひたすら平地を歩く。目指すは島の南東に位置する巨大な遺構の一つ、通称”サンスイール”憧れだった古代都市に胸を躍らせる一方、文明の謎を解き明かす確かな手掛かりを手に入れるため私は現地で何をすべきか、思いふけっていた。

 

 

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―選択肢―

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場所:ポートリエス-構外

◆ :テス・プロンプト

◇ :トラベル・ノートベル

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 ◆う~ん、う~ん......

◇さっきから何をうんうん唸ってるの?ちゃんと前見て歩かないと危ないよ?

◆あぁごめんなさい、少し考え事してて。

◇ていうか何よその大きなリュックは、重くないの?今日はたくさん歩くんだから荷物は最小限にって言ったじゃない。途中で疲れちゃっても知らないからね?

◆安心して、中身は空っぽだから。

◇空っぽ?もしかしてそれって戦利品入れ?にしては大きすぎない?

◆そうよ?せっかく現地に行くんだもの、ポケットは大きい方がいいに決まってるじゃない。資料は持てるだけ持って帰らなくちゃ。

◇前に私のこと物漁り扱いしてたくせに、テスちゃんの方がよっぽどじゃない。 

◆私はいいのよ、学者なんだから。

◇え~、なんか釈然としないなぁ……。

◆それより聞いてよ、今私たちが向かってるサンスイールって遺構なんだけど私の持ってる資料だと町の東側には工場とか商店とかが沢山あるらしくて、んで逆に西側には役場とか病院とか、いわゆる公共施設が集中してるみたいなのよ。

◇へ~、それがどうしたの?

◆東側の工場に行けば日用品の生産に関する重要な帳簿や書類が手に入りそうだと思わない?それって当時の経済状況を把握するいい手がかりになると思うのよ。だから是非とも手に入れたいところなんだけど......。

◇だけど?

◆でも西側の、特に役場には行政の履歴とか住人名簿とか、もっと重要そうなものが手に入りそうな気がしてて......大きな町だから流石に一日で両方は回りきれないじゃない?どっちに行くべきだと思う?

◇そんなの知らないよ、行きたい方に行けばいいんじゃない?

◆それが決めれないから困ってるんじゃないの。

◇じゃあ西でいいんじゃないー?近いしー。

◆そんな適当な......。

◇そもそもテスちゃんは今回の冒険で何を調べたいの?当時の文化?それとも経済?

◆どっちもよ、人々が何を食べどんな生活を送っていたのか日常の様子も知りたいし、当時の政治的な情勢も知りたい......でも何より、出来ることなら文明が滅んでしまった理由を知る手掛かりが今は一番欲しいかな。

◇そっかー、じゃあなおさら西でいいんじゃない?役場に行って市長さんの日記でも手に入れれば何かしら情報は見つかるでしょ。

◆何の根拠があってそんな事を......まぁ悩んでいてもしょうがないわね、今回はあなたの言う通りにしようかしら?

◇やった!公共施設が集まってるってことはきっと図書館もあるのよね?また何か面白い小説が見つかるといいなぁ~♪

◆ちょっとちょっと、まさかその為に西を勧めてた訳じゃないでしょうね?言っとくけど、まずは役場だからね。図書館はその後よ、いい? 

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――ついにここまで来たか、よし。そのプロトタイプとやらを彼に投薬してみたまえ――


外の世界は想像していたよりも遥かに穏やかで、私達は何の不自由もなく無事目的地へとたどり着くことができた。私は憧れだった古代都市を前に込み上げる感情を抑え、この道中で立てた予定通り当時役場として機能していたであろう建物を目指し歩みを進めた。目的とする建物の中は外観から想像できる通り荒れ果てており、金銭的価値のある装飾品や家財道具は跡形もなく持ち去られ床は長きにわたる略奪者の来訪で酷く汚れてはいたが意外にもそれ以外の備品はまだまだ当時の面影を感じ取れる程度には残されていた。その中でも略奪者にとって重く嵩張る上に大した価値を生み出さない書物はほぼ手付かずのまま放置されており、私の欲していた歴史的資料もまた埃とカビにまみれた書庫から驚くほど簡単に、そして大量に発見された。斯くして私は当初の目的をあっさりと果たし、足早に図書館へ向かう隣人の付き添いを済ませた後、人生初となる遠征を華々しく大成功で納めたのだった。

  

 

――おい!話が違うぞ!なぜ言うことを聞かない!誰かこいつを止めろ!止まれ!止ま――

 

 

持ち帰った文献達は表紙こそ頑丈な革で腐食を免れてはいたが、残念ながら中はどれもよい状態と呼べる物ではなかった。記録を読み解くにはまずカビを取り除き、しっかり天日に干した後湿気で癒着したページを破けないように1枚1枚丁寧に引き剥がしていく作業が必要だった。おかげで文献の修復には想像以上の労力を要したが、そうした苦労の末、私は手に入れた情報の中からようやく文明崩壊に繋がったとされる出来事の仮説にたどり着くことができた。私の解釈によるとどうやら当時、サンスイールを含めた大都市では大規模な感染症が流行していたらしい、そしてその感染症はただの病気などではなくもっと悲惨な……資料を読み解くうちになぜか不思議な感情が湧いてくる、私はこの出来事について知っている。もしそうだとすれば、私はこの仮説を裏付ける確かな確証の在り処も知っている。それはいつか覗いた事のある誰かの悲しい記憶だった。

 

 

――Dレベルクラスターの発生を確認しました、浄化班は直ちに該当区画を一掃してください――

 

 

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―代替案―

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場所:ポートリエス-雑貨店

◆ :テス・プロンプト

◇ :寺本・ベル

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◇あのペンダントを貸してほしいだって?いやだよ、また店内で暴れられても困る。

◆今度はそうならない様に気を付けるから。

◇いーや無理だね、姉さんはまた気が触れるまで見るのを止めないよ。

◆なんでそう言い切れるのよ。

◇それなりに長い付き合いじゃないか、私にはわかる。

◇そもそもその”物に刻まれた記憶を見る”って魔法を安易に遺物に使うの、よした方がいいんじゃないかい?まだあの時のこと、思い出すんだろう?

◆それは……。

◇そりゃー私からすればぱっと見何の変哲もないただの綺麗なペンダントさ、でも実際には姉さんの精神を簡単に壊してしまう程の代物なんだろう?そんなものをおいそれとは渡せないよ。それにたとえもう一度この記憶を見て何か学ぶことがあったとしても、肝心の姉さんが壊れちゃったら何の意味もない。私だって顧客が減るのは困るしさ。

◆……もちろんこの魔法の恐ろしさは十分理解してるつもりよ、だからできるだけ使わないように努力してるし研究もわざわざ文献を集めてそこから情報を読み解くようにしてる、だけど……

◇だけどじゃない。努力を貫きなよ、どうして今になってまた魔法に頼ろうとするのさ。

◆わかりそうなのよ……そのペンダントに刻まれた記憶の本当の意味が……

◆そのペンダントにはしっかり記憶されているはずなのよ、当時の生活を、そして島の文明を滅ぼすに至った原因の一部始終が……私が長年追い求めてきた研究の答えがそこにあるはずなのよ……。

◇楽な道を選んでも得るものはないよ、これは商売にも言えることさ。とにかく、ペンダントを渡す気はないからね。

◆なによ偉そうに……。

◇しかし代わりと言っては何だが、こんな物で良ければ渡せるが。

◆……なによこれ?

◇金庫の鍵だよ、実は例のペンダントに括り付けてあったものなんだが……コレクションとして飾るうえで邪魔だったから外しておいたのを今思い出したんだ。おそらく持ち主も同じだろう。あらかじめ言っとくけど記憶は見るんじゃないよ、多分ペンダントと同じで気が触れるだろうから。

◆なんでそんな物を私に?

◇姉さんの話だとペンダントの持ち主は学者だったんだろう?学者が肌身離さず持ってる金庫の鍵、中身はきっと研究に関する資料に違いない。私からしたら大したものじゃないし誰かに売れるようなものでもない、でも姉さんからすればそれなりに魅力的なんじゃないかい?

◆う~ん確かに魅力的ではあるんだけど……でもその金庫がどこにあるのかわからなければ何の意味もないわ。すでに壊されて中身は空っぽの可能性だってあるわけだし。

◇そこで私の出番って訳よ。って言ってもすでに鑑定は終わってて、その鍵はここから南西にあるパデンミック?って町のミボトロー病院?の4階にある中型金庫の物らしい。状態は”風化・施錠”だってさ。

◆……魔法でそこまでわかるものなの?

◇私が商人としてやっていける所以だね。さて、いくらで売ろうか?

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――底まで落ちてしまって、もう答えが見えないのですか?――

 

 

雑貨屋の店主から鍵をそれなりの値段で買い取った私は翌日、いきなりの誘いに外出を渋る隣人を半ば無理やり引き連れ町の南西にある遺構"パデンミック"へと出発した。しかしそこへの道のりはサンスイールへ赴いた時のように平坦なものではなく、随分険しいものとなっていた。草木の茂る森をかき分けて進み、川を越え、ゆるい軟泥地を進んだ。この道のりは外を歩く事に慣れている隣人ならともかく冒険初心者の私にとっては少々ハードルが高かったらしく、愉快に木の棒を掲げ前を進む隣人を尻目に私は息も絶え絶えになりながらなんとか目的地である古代都市へたどり着いた。町には朽ちた案内板が今も尚佇んでおり雑貨屋で聞いた"ミボトロー病院"を探し出すのに苦労はしなかった。この荒廃した町にそぐわないえらく小奇麗な外観に多少の違和感を覚えつつ、私達はその建物へと足を踏み入れた。

 

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―記憶―

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場所:パデンミック-ミボトロー病院ロビー

◆ :テス・プロンプト

◇ :トラベル・ノートベル

◎ :病院の幽霊

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◇へ~、なんだか綺麗な建物だね。こんなに綺麗なら普通に住めちゃいそうじゃない?

◆綺麗と言うか、変に片付いてると言うか……なんだか気味が悪いわね。

◇あ、もしかして野盗の住処だったりして~!

◎失礼ね、そんなこと無いわよ。

◇あら?

◎ようこそミボトロー中央病院へ。ご用件は何でしょう?

◆体が白い......あれってもしかして......

◇うん、幽霊さんだね。

◆幽霊さんだね、じゃないわよ!逃げないと......!あっ!痛っ!

◇あらら~、そんな急に走るから......。

◎あの、ちょっと......大丈夫……?

◇彼女、少し動揺しちゃってるみたい。ここ病院なのに騒いじゃってごめんねー。

◆いたた......何をそんな落ち着いてるの?早く転送魔法の準備を......!

◇テスちゃんちょっと落ち着いて、ほらほらよ〜く見てみてよ?

◆え?

◇全然敵意なんて感じないでしょ?この人はきっと話せばわかるタイプの幽霊さんだよ。ね?

◎私を見てここまで驚かない方も珍しいのですが......それよりお連れの方はどうやら足を挫かれたご様子です。でも運よくここは病院、軟膏もありますし良ければ手当を致しましょうか?

◇あら!いいの?じゃあお願いしようかしら?

◆ちょっと何勝手に話を進めて……

◎もちろんです。さぁお嬢さん、手を私の肩へ。まずはそこのベンチまでゆっくり歩けますか?

◆え?えぇ……あ、ありがとうございます……。

◎いえいえ、これが私の本来の仕事ですから。おや?その鍵は......。

◎コホン、まぁそれよりお嬢さん方今日は本院へどういったご用件で?どうやら物漁りでは無いようですが......。

◇物漁りに見えないだってよテスちゃん、耳が痛いんじゃない?

◆あなただって......。今日私達がここに来たのはこの町を調査する為なんです。

◎調査……ですか?

◆えぇ、ここに住んでるあなたにこの話をするのは少々心苦しいのですが......どうか気を悪くせず聞いてください。

◎えぇ。

◆実はこの町は......既に滅んでいるのです。

◎......えぇ?この町が滅んでるですって!?

◆......。

◎なーんちゃって。ご安心ください、重々承知しておりますから。私が幽霊であることも含めて。

◆そ、そうですか......実を言うと私、考古学者なんです。それで今日はこの町が滅んでしまった原因を、いや、滅ぶ原因となったとある事件について確証を探しに来たんです。

◎へぇー。滅んだ原因ねぇ、中々面白いお話ね。

◇おや?

◎……そんな事言われると、何だかやるせない気分になるわね。

◇へ?

◎あなた、金庫を開けに来たんでしょう?その鍵。懐かしいわね......。

◆鍵?まさかこの鍵の持ち主って......。

◎そう、私のよ。ずーっと探してたの、何年も何年も、だからあなたには悪いけど......力づくで取り返させてもらうわね。

◆痛っ!痛い!何よ急に!?

◇わっ!ちょっと幽霊さん!?一体どうしちゃったの!?

◎金庫の中身を渡すわけには行かないのよ……誰にも渡さない、だから……その鍵を返しなさい!

◆ちょ、ちょっと!まってよ!

◇よく分からないけどテスちゃん今は逃げた方がいいかも!早くこっちに!

◎逃がさない......逃がすわけにはいかないのよ......

◇ほら手をつないで!転送するよ!

◆ちょ、ちょっと待ってって!ちょっとだけ....!

◇えぇ?何よこんな時に!

◆ホズラット......ホズラットさん!そうよね?あなたの名前!

◎!?

◆私はあなたを知っている!あなたの苦労も!だから……落ち着いて話を聞いてほしいの。

◎......。

◆あなたはある研究で、酷く重い業を背負ってしまった。

◎......。

◆でもそれはあなた一人のせいではないし、あなたの望んだことでもなかった、そうでしょう?

◎......そう、そうよ……あぁ懐かしい響きね、その名前で呼ばれるのは……何年ぶりかしら。

◆事の顛末は知ってるわ、金庫の中身も大体の予想はついてる。だから......この鍵はあなたに返すわ。それが賢明だと思うから。でも......少しだけ話を聞かせてくれないかしら?悪いようにはしないから......。

◎......えぇ、わかったわ。でもその前に一つやりたいことがあるの、わかるでしょう?それが終わってからでも、いいかしら?

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――過ちは消えましたか?罪は償えましたか?――

 

 

落ち着きを取り戻した彼女は私から鍵を受取り、重い足取りで階段を登って行った。数分後、ガラスの砕ける音と数回の炸裂音の後、彼女は初めて出会った時と同じ落ち着いた様子で再び私達の前に姿を現した。

 

 

――過ちは消えません、ただ繰り返すだけです――

 

 

それから彼女は多くの事を私達に話してくれた。過去に任せられた仕事の事、その仕事で重大なミスを犯した事。そのミスが世界中の人々の命を奪う結果につながった事。......そして私達は、彼女が作り出した怪物の末裔である事。

 

 

――許しを請う相手がいなければ、一体誰がこの償いを認めてくれるのでしょう?――

 

 

彼女の生み出したかったもの、それは無限に増殖する従順な労働者だった。キノコの遺伝子を組み込み菌糸で繁殖する意思を持たない人類。完成すれば人々は労働から解放され文明は飛躍的に進化するはずだった。

 

 

――正当化する事が唯一あなたに課せられた使命です――

 

 

しかし実験は思うようにはいかなかった。改造遺伝子を注入された被験者は欲望のままに人を食らい、どんどん増殖していった。人々にあとちょっとの倫理観があれば世界はまた違った運命を辿っていたのかもしれない。でも今更どうしようもない、図らずしも世界は彼女の手によってこの道を選んだ。そして多くの犠牲の上で私は産まれた。

 

 

――此処を正とするのならば、それは過ちと言えますか?――

 

 

過ちの延長で生まれた私達の存在は罪なのか?それは誰にもわからない。世界は何があっても進み続ける。もしもの世界は存在しない。分岐もしない。ただ一つ学んだこと、それは私達人間の行いは時折世界を一変させてしまう事があると言う事、ただそれだけ。

 

 

――懺悔の意思があるのならば、今すぐ全てが良くなるでしょう――

 

 

――― END ―――